看護士

私が入院していたのは、10日間である。4人部屋であった。その間、ベッドが半日以上空いたままということは一度もなかった。大抵は、2時間以内に次の患者が入ってくる。相当目まぐるしい。十日間で10人ほど入れ変わったろうか。私の退院した時には、私の居た部屋には、私より古い人は誰も残っていなかった。

一応は内科病棟ということになっているが、私のような外科の患者も混じっている。

看護士は、それに適切に対応してゆく。

6階のその内科病棟には、全部で60余名が収容されていたが、どうやら部屋番号が奇数が男部屋、偶数が女部屋のようであった。女部屋のベッドにはときどき空きが見られた。

日中、談話室には車いすに乗った老人が3人から5人居た。ナースステーションの目の前で、何時でも誰かの目に留まるところに居る人たちだ。夜中には、誰もいないことの方が多かったが、一人か二人ナースステーションの中に居ることがあった。その時は夜勤の一人はそこにくぎ付けされてしまうのだろう。談話室の片隅にお茶が出る器械があり、便秘を恐れる(何日も何も食べず点滴だけであったから)私は夜中でも時々そこを利用していたのである。

或る時の私の足元のベッドの老人はたった一晩で移動していった。用足しに起きる時は必ずナースコールして、一人で起きないように言われていたのだが、言いつけを守らず、一人で行動するということがあり、翌日に、ナースステーションの近くの部屋に移動になった。安全が確保できないからである。

実際に、ある夜わたしがトイレに起きた時、廊下でばったり倒れたようで、寝そべって動かないおばさんがいた。近づいて声をかけたら、どうやらトイレに出て転倒して、起きられす、そこで漏らしてしまっているようであった。私は点滴の袋を引き摺りながらでもあり、他人を助ける力の出ない状態だったので、大声で「だれか呼んできますね」と声をかけて歩き出したら、巡回中の看護士さんがそれを聞きつけて別の部屋から出てきて対応するということがあった。

私は何も出来ないので、すぐにその場を離れたが、後始末から何から、看護士はなかなか大変だったろうと思う。

こういうのが日常である。

クレーマーというのではないが、いろいろしつこく聞かないではいられない人もいる。それは自分の事だから、心配なのだろうが、時間に追われて仕事をしている看護士はなかなか大変だろうと思う。しかし聞いていると実に丁寧に応対して、苛々している様子も、振り払う様子も感じられない。

概して、見聞したすべてが、尊敬に値する。

大変過酷な職場である。