『江戸巷談 藤岡屋ばなし』

ちくま学芸文庫 鈴木棠三

 

藤岡屋と言われる、なかなか変わった人が書き残したさまざまな話を、鈴木さんが、ボクなどにも理解できるように、編集してくれている本である。

 

購入したのはもう20年近く前の事だが、折に触れて、部分的に読んできた。

今回は、最初から最後まで、読んでみようと思い、手に取っている。

 

今の世では、テレビに取り上げられると、すぐに広まる。しかし、それとは違って、近所のうわさは、テレビには出ないが、直ぐに広まる。これは、内容によっては、そうとう遠方にまで、短時間で広まる。

私は、そういう経験を何度かしているのだが、その一つの例は、次のようなものである。

(これは以前にも書いたことがあるがそれは今のブログではない)

四国のお遍路をしていた頃、(相当前、まだお遍路のブームが起こる前の事である。)

四国遍路もそろそろ終わりに近い頃、愛媛県香川県かの山中を歩いていた時に、一度観光バスに追い抜かれて、亦追い抜いて、また追い抜かれて・・・最終的に、ボクがバスより早く山の上のあるお寺についているのを、バスを降りてきたお遍路のおばさんたちが見つけて、驚いて、信じられないと言って、それぞれ千円札を喜捨してくれたということがあった。

その翌日、遍路姿のおじいさんが、途中で一緒になり、いろいろ話しかけてきた。

しばらく一緒に歩いていたが、やがて別れた。

まもなく、何処のお寺でも、遍路姿のおばさんが近づいてきて、挨拶をしたり私の衣に触ろうとしたり、私の入れた遍路札を取ろうとしたり(ボクは最初の遍路だったから白い札を入れていたのだが、その人たちは金札を欲しがっていて、ボクが金札の持ち主と思われていたのである)・・・。

不思議に思って、そんなある人に聞いてみると、100回以上歩いている金札のお坊さんが歩いているという噂が流れているということが分かった。

 

それで初めて、ボクに近寄ってきたおじいさんが、その金札のおじいさんで、その人がボクに注目したのは、バスに乗っていたおばさんたちの口コミだろうと。

 

口コミは、このように伝わるのが早い。目を見張るほどだ。

ぼくはこの他にも、何回か経験したが・・・まあ悪いことは出来ない。悪事千里を走るというが、まさにそれだなあ、と。

 

つまり、この「藤岡屋ばなし」というのは、江戸時代に、千里を走ったような話を採録したものである。

 

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史記列伝』4冊目に入った。匈奴列伝 第五十 を読んでいる。

山本周五郎青べか物語』を読んでいる。