『荘子』より

今回はかなり長い。

荘子』人間世篇第四 二  (岩波文庫 第一分冊)

 

(楚の国の)葉公子高は、国使として斉の国へ行くことになったとき、孔子に意見を求めてこう言った。

「王さまがこの私に与えられた使命は、非常に重大です。しかし、相手の斉では、使者に対して恐らく非常に鄭重にもてなしはしても、急の交渉には応じないでしょう。あいてがふつうの男でさえ、なかなか心を変えさせることができないのに、まして相手が諸侯では、なおさらのことです。私はこの事態をとても心配しているのです。あなたはいつか私に話されたことがあります。およそものごとは、小事であれ大事であれ、その成功を喜びとされないようなことは、めったにない。そこで、事業がもし成功しなければ、きっと人の怒りをかうという害をうけるし、事業がもし成功したとすれば、きっと心労のために病気にかかるという害をうける。成功しても成功しなくても、いずれにしてもその後で何の害も受けないというのは、ただ有徳者にだけ出来ることだ、というのです。

私の食事は、粗食主義でぜいたくな料理は食べず、炊事にも、召使が熱気を避けて涼みたがるほどのことは、していません。それなのに、いま私は朝のうちに、命令を受けたばかりで、夕方には身体が熱くなって氷を飲んでいますが、これは決して栄養の摂り過ぎではありませんから、心労のために体内に熱がこもったのでしょう。してみると、私はまだ当の仕事の実際にぶつからないうちから、早くも心労のために病気にかかるという害にあっているわけです。仕事がもしうまくいかないばあいには、またきっと王さまの怒りで刑罰にあうという害にあいましょう。これではどちらにしても害を受けることになります。人の臣下として、こういうありさまではとても責任を果たせません。あなた、何か私にお教え頂きたいものです。」

 

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とりあえず、全体の三分の一ほど写しました。心労のために体が熱くなる、という経験をしたことがない人は殆どいないのではないでしょうか。とくに、責任が重かったり、自分の命が掛かっている時には、平常心が失われてしまう。

日々の精進は一体何だったのかと、心細くなります。

 

次回は、孔子の教えです。勿論、これは孔子の名を借りた荘子の教えですが・・・。

 つづく